ビニール袋の使用を制限する「限塑令」施行に至る経緯、現状及び今後について  |
| (所長補佐 角森一博(京都府派遣)) |
今、石油資源の保護、ゴミの減量化、自然界に対する悪影響防止といった観点から、プラスチック製のビニール袋(レジ袋)を法律で規制して削減する動きが、世界各地に広がっている。
例えば、韓国では、1992年制定の使い捨て容器規制により、スーパー等でのビニール袋の無料配布が禁止され、希望する客に対して100ウォン(約10円)で販売することとなった。
また、バングラデシュでは、2002年にビニール袋の製造と使用を禁止する法律が施行され、法律に違反した者に対しては、懲役刑(ビニール袋を流通、販売した場合、最高で10年。ビニール袋を捨てた人にも6ヶ月)や罰金刑が科せられるようになった。
さらに、アイルランドでは、2005年にスーパー等で配布するビニール袋1枚につき15セント(約25円)の税金を課し、その税収を全額環境保護基金に納め、環境保護事業の資金に充当することとしたところ、わずか5ヶ月で使用量が90%削減された。(注:2007年以降は、税額が22セント(約35円)にアップ)
日本においても、東京都杉並区が2002年に制定した、ビニール袋1枚につき5円課税する環境目的税条例を契機として、全国各地で自治体、市民団体、事業者間の自主協定によるビニール袋抑制に向けた動きが進んでいる。(なお、杉並区では環境目的税条例は実施されず、2008年4月よりビニール袋等の有料化を推進する条例を施行している)
こうした潮流の中、中国においても、2005年の「科学的発展観を実行し環境保全を強化することに関する国務院の決定」や、翌2006年の第10期全国人民代表大会で採択された「国民経済と社会発展に関する第11次5ヶ年計画の綱要(いわゆる「十一五」)において、汚染物質の削減や省エネルギーの推進を国及び地方政府の最重点課題と位置づけて、様々な取組みを積極的に展開しているところであるが、その一環として、
@ 高度経済成長を経て、住民の環境に対する意識が高まってきた
A 政府、企業ともに経済発展だけではなく、省エネ・循環型社会の構築に取り組んでいる
B 土に返らない超薄型のビニール袋による「白色汚染」が深刻な問題となっている
という認識のもと、今年の6月1日より、ビニール袋の消費を制限する「限塑令」を施行することとなった。具体的には、
@ 厚さ0.025mm以下のビニール袋の生産、流通及び販売の全面禁止
A 環境への配慮や丈夫さ等の観点に基づくビニール袋の国家標準の提示
B スーパー等におけるビニール袋の無料提供の禁止及び価格明示の義務化
C ビニール袋のリサイクルの推進
といった内容が盛り込まれており、この法律に基づき、環境保護部、国家発展改革委員会、国家標準化管理委員会、商務部等が一丸となって、ビニール袋の削減に向けた取組みを進めているところである。
今回の「限塑令」制定に際して、環境保護部(今年3月までは国家環境保護総局)においては、アイルランドで採用された課税方式も検討したが、課税することにより消費者を誘導する方法では「白色汚染」の防止には手ぬるいと判断し、より直接的な方式を採用したとのことであった。
ここで、中国政府(環境保護部)が特に問題視した「白色汚染」について説明する。ビニールは一種の高分子材料で、主要な原材料はポリエチレンであるが、リサイクルが非常に困難であり、地中で200年もの間分解されずに残存することから、廃棄されることにより土地の質、ひいては農作物の成長にも影響を及ぼすほか、ビニール袋等のビニール製品を野生の動物・魚が飲み込んで窒息したり、飲み込んだものを胃で分解できず、命を落とすといった事態が発生しており、こうしたビニール製品は白色が多いことから、こうした汚染を称して「白色汚染」と呼んでいる。
この「限塑令」施行を受けて、販売コストには上乗せしないという原則に基づき、各スーパー等においては、ビニール袋の大きさ、丈夫さに応じた価格をそれぞれ設定している。なお、主要なスーパー等が設定した価格は以下のとおりである。
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| 有料ビニール袋の価格表示(ウォルマート) |
◆スーパーマーケット
家楽福(カルフール)
7sまでの重量に対応できる袋が0.2元(約3円)
10sまで対応できる超大号が1元(約15円)
沃尔玛(ウォルマート)
大・中・小の3種類存在
価格は小0.1元、中0.2元、大0.3元
(円換算すると、約1.5円、約3円、約5円)
京客隆(地場のスーパーチェーン店)
超大・大・中・小の4種類存在
価格は小0.1元、中0.15元、大0.2元、超大0.3元
(日本円ではそれぞれ、約1.5円、約2円、約3円、約5円)
◆コンビニエンスストア
セブンイレブンには4種類存在。価格面で見ると0.2元が2種類と0.1元が2種類存在。
さて、施行後2ヶ月を経た現在、様々な記事(インターネット配信も含む)や各スーパー等の店員の話を総合すると、
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買い物時に使用するビニール袋の量は大幅に減少している。 |
| ○ |
現在は、消費者の多くがエコバックを用いる習慣を身に着けている段階である。都会に住む大部分の人は自分でエコバックを持ち、あるスーパーのレジ係の話によると、問いかける前に、自ら「ビニール袋は要りません」という人も存在するとのことであった。 |
| ○ |
ビニール袋の有料化に伴い、スーパー等でゴミ袋を買うという選択をしている市民が多く、各スーパー等の統計によると、施行後、店頭で販売されるゴミ袋の種類が非常に多くなり、その売上数量も以前と比べると30%から140%の増加となっている。 |
といった比較的好ましいと思われる現象が起こっている一方で、
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| 工場名、電話番号等が印字されたビニール袋 |
ビニール袋の標準設定により、ビニール袋の製造業に深刻な影響を及ぼしている。以前であれば匿名で生産可能であったが、施行後は、企業(工場)名、場所、材質、最大耐久重量、生産合格証明番号、環境保護声明、安全性の説明等をビニール袋に印刷することが求められ、さらに直接食品に触れるビニール袋の場合には「食品用」という文字と「QS」マークの表示が求められるようになったことから、こうした技術力を持たない小規模企業が生産停止や廃業に追い込まれている。 |
| ○ |
ゴミ箱に捨てられるビニール袋は明確に減少し、いわゆる「白色汚染」の危険性は少なくなっているが、一部の地方都市では、大量の「裸投棄(包装されずに捨てられた)ゴミ」が増加し、そこに蝿や蚊が寄ってくる、悪臭を放つといった形で都市の衛生環境を汚染しているとともに、ゴミ清掃員がゴミ箱を清掃する時間と作業量も確実に増加している。 |
| ○ |
北京、上海、広州等の大都市においては、大型スーパー等では「限塑令」を遵守しビニール袋の使用が減少しているものの、農作物を取り扱う(小規模の)市場では現在でもビニール袋を使用して果物や野菜等を包んでいるのが実情である。 |
といった歓迎されない事態も招いている。
しかしながら、最初の小規模のビニール袋製造業者が生産停止等に追い込まれている事態に対する中国政府(環境保護部)の見解としては、「前年12月末に公表してから半年間の猶予期間を設けた。環境保護対策に立ち遅れた企業は淘汰することを基本線としている以上、半年間の猶予期間中に対応できなかった企業に対して特別に補償するつもりはない」というものである。都市景観に合わない古い建物を躊躇なく取り壊し、高層ビル等の建設を積極的に推進する都市計画にも相通じるものを感じるとともに、日本であれば「弱者への配慮が足りない」という批判が出かねない対応を敢えて採用している中国政府の環境保全に対する強い姿勢も伺える。
一方、2番目のいわゆる「裸投棄ゴミ」の問題や、ゴミを運搬する際に 依然として分別できていないといった問題に対しては、関心の高い市民からは、分別収集のゴミ箱の設置、ゴミ分類の詳細化、ゴミの分別処理の体制確立、といった改善提案が出されており、こうした提案を必ずしも受けたものではないと思われるが、都市部を中心として、分別収集のゴミ箱が設置されつつある。さらに、7月末には、北京市内で初めての大規模現代型ごみ焼却施設である「北京高安屯生活ゴミ焼却場」が操業を開始するなど、年々増加する生活ゴミ問題を解決する取組みが進められている。
上の写真の左側にあるのが、7月頃から北京市内に設置されるようになってきた分別回収用のゴミ箱であるが、中国政府においても、あと3年に迫った「十一五」の期間中に達成すべき8つの目標の1つとして、「都市環境保全の深化と環境質量の改善努力」を掲げており、大気、汚水とともに生活ゴミによる汚染を防止する姿勢を明確に示している。
また、マスメディアや一部市民からは、環境保護に要する経費を誰が負担すべきなのか、ビニール袋の有料化すれば本当に環境保護につながるのか、エコバックや紙袋が新たな環境汚染を引き起こすのではないか、といった議論が各方面で行われている。
具体的な争点を以下に紹介する。
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ビニール袋の価格を統一にすべきか否か。 |
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統一価格にすれば、スーパー等が私利を貪ることを防止できるという賛成意見がある一方、各社のビニール袋の製造コストに相違があることから、ビニール袋を販売することにより利益を上げている訳ではない、という反対意見も存在している。ちなみに、これに対する中国政府(環境保護部)の見解としては、価格統一化は不要と考えるが、各地方政府独自の地域標準を設定する動きが、今後見られるのではないかとのことであった。 |
| ◇ |
環境保護の費用は誰が支払うべきなのか。 |
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ビニール袋の有料化によって使用量を減らすという目的は素晴らしいが、毎回の買い物で3、4枚のビニール袋が必要となることから、長い目で見れば、消費者の支出はかなりの額となる一方、大型スーパーにとっては、毎日数万もの客が来店し、各人が3、4枚のビニール袋を消費することになれば、僅か1日でビニール袋の売上額が数万元にも上ることとなり、最終的には、環境保護の経費を全て消費者に転嫁するだけにならないか、という懸念が表明されている。 |
| ◇ |
エコバックは本当に環境汚染を減らすことができるのか。 |
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ウォルマートの店頭で販売されているエコバック |
(2元(約30円)で販売)※8月初旬には3.8元(約60円)に値上げ |
環境保護の専門家からは、紙袋でビニール袋の代用をしようとしても、価格が高く、水漏れや熱防止の性能面で劣るだけではなく、紙袋を製造するため数多くの樹木を伐採したり、製紙工程で水を汚染したりすることから、森林減少や河川汚染という環境の悪化を招く。不織布であっても、繰り返し使用できるものの、耐久性は消費者が思うほどに強くないばかりか、不織布の表面に凸凹があり、粘着力も強いことから汚れがこびり付き、1回で綺麗に洗うことは非常に難しく、多くの水資源を浪費することになるという意見が出されている。 |
ところで、「限塑令」を制定、運用している環境保護部においては、現状をどのように認識しているのか。この点を環境保護部汚染控制司(固体廃物及び有毒化学品管理処)にヒアリングした。0.025mm以下のビニール袋の生産禁止を監督しているのは、国家発展改革委員会の国家品質管理当局であり、スーパーでの有料提供がなされているかをチェックするのは国家工商当局であることから、環境保護部としては施策効果をチェックする立場にはないものの、今後の課題として、以下の対応を検討しているとのコメントを頂戴した。
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ビニール袋の代替品の開発 |
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具体的には、使いやすくて持ち運びしやすく、白色汚染を防止する商品の開発を考えており、市販されているエコバックと同じものになるかどうかは現時点では不明である。 |
| A |
生活ゴミの輸送システムの確立 |
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生活ゴミの回収、輸送システムが確立されていないため、ゴミが散乱してしまう可能性もあることから、いかに流れよく集めて回収するかを検討する。 |
| B |
廃棄したビニール袋を再生利用できるようにして、その回収量を増やす。 |
また、今回は白色汚染を減らすため、0.025mm以下のビニール袋の生産禁止という直接的な手段を採用したが、今後は、0.025mm以上のビニール袋に対しても、環境に負荷を与えるものに対して課税する環境税の対象に含める方向で、財政部、国税局と検討しているという話もなされた。
しかしながら、こうした国の取組みが実効性を上げるためには、当然のことながら、各地方政府の協力が不可欠であり、例えば、広東省深セン市では「深セン経済特区環境保護条例(案)」において、スーパー等が消費者に無料でビニール袋を提供した場合には、5,000元から5万元(別の報道によると2万元)の罰金を課す方向であることを示し、市民からの意見を求めるなど、今後は、各地方政府レベルでの取組みが積極的になるものと推測される。
こうした中、日本及び各地方自治体が長年にわたり取り組んできた、各種リサイクル対応や廃棄物処理、生活ゴミ等の3R政策(Reduce=減量化、Reuse=商品の再利用、Recycle=再生利用)等、資源循環型社会づくりの経験を活かして、今後多くの困難に直面することが予想される中国の各地方政府を様々な形で支援することにより、環境分野における日中の地域間交流が促進されるのではないかと考える。
今後、クレア北京事務所としても、中国の各地方政府が求めるニーズをより詳細に把握するとともに、日本の各地自治体が有するシーズ(専門的知識及び経験)とのきめ細かなマッチングを持続的に積み重ねることにより、日中間の環境交流の促進に向けた取組みを積極的に支援していきたい。
※参考資料
・網易(2007年11月11日掲載「深セン市は法律で無料ビニール袋の使用を禁止する予定」)
・騰訊網(2008年5月15日掲載「塑料袋(ビニール袋)有料化で本当に環境保護を実現できるか」)
・人民網河南視窓(2008年6月17日掲載「限塑令施行後、ゴミが『裸で出されている』」)
・天府熱線新聞頻道(2008年6月17日掲載「限塑令施行後、ゴミ袋の売上が急増」)
・新華網(2008年6月18日掲載「6月1日から半月経過して「限塑令」の執行状況はどうか」)
・信報(2008年7月29日号掲載記事「北京市 大型生活ごみ焼却場が運転を開始」)
・経済産業省ホームページ(3R政策)
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